「玄関で靴を脱ぐ」から感染者が少ない? そんなことより病院内はウイルスだらけ

2020/04/17

COVID-19 SARS-CoV-2 エアロゾル感染 コロナウイルス 感染経路

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US の CDC (疾病予防管理センター) の発行する査読付き雑誌 Emerging Infectious Diseases journal (EID) というものがあります。世界中の新しい (Emerging) 感染症 (Infectious deseases) の事例を取り上げ、発生、予防、制御、除去などについての研究成果を発表する場となっています。

現在、Volume 26, Number 7 (2020年7月号) の Early Release がオンラインで公開されているところですが、4/10 付で Aerosol and Surface Distribution of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Hospital Wards, Wuhan, China, 2020 という記事が公開され、注目を集めています。靴が汚染されているので、玄関で靴を脱ぐ日本は感染者が少ないのではないか、という憶測記事の根拠として使われているのですが、本来は、病院内の汚染状況の深刻さを伝えるレポートです。
具体的には、中国・武漢の火神山医院という病院で、集中治療室と COVID-19 病棟内の空気中や物体表面について、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 がどのように分布しているかについて調査した結果の報告です。
ちなみにこの火神山医院、2020年1月23日に建設することを決めて2月3日は完成、2月4日から患者受け入れ開始というすさまじいスピードで作られた、COVID-19 のための病院です。

結論は3つ

このディスパッチ論文では、次の3つのことを結論付けています。

病院中が汚染されていて院内感染リスクは極めて高い

集中治療室においても、COVID-19 病棟においても、空気中、物体表面ともに SARS-CoV-2 ウイルスが広く分布していることが分かりました。
医療関係者もその接触者も、高い感染リスクを負っています。

病棟よりも集中治療室の方が汚染が深刻

集中治療室内で働く医療従事者は、保護対策をより厳しく実施する必要があります。

汚染エアロゾルは4m到達している

この調査では、病棟内の汚染エアロゾルが患者から4m前後まで到達している可能性があると述べています。
ソーシャル・ディスタンスとして2m確保しようと言われていますが、足りないということです。

調査内容

汚染状況の調査

2月19日〜3月2日、集中治療室には15名の重症患者が、病棟には24名の軽症患者が収容されていました。この間、集中治療室と病棟からサンプルを収集しました。空気については、室内の空気と排気口から300リットル/分で30分間収集しました。物体表面については、床、コンピュータのマウス、ゴミ箱、ベッドの手すり、患者の着用していたマスク、防護服、排気口から綿棒で採取しました。そして PCR 検査で SARS-CoV-2 を検出しました。集中治療室と病棟それぞれについて、エリアを「汚染エリア」、「半汚染エリア」、「クリーンエリア」の3つに分けて集計しました。

各エリアの陽性率
汚染エリア半汚染エリアクリーンエリア
集中治療室43.5%8.3%0.0%
COVID-19 病棟7.9%0.0%0.0%

汚染されていた箇所のほとんどは、汚染エリア内でした。集中治療室においては汚染箇所57箇所中54箇所 (94.7%)、病棟においては、9箇所中9箇所全て (100%) が汚染エリア内でした。クリーンエリアからは汚染は見付かりませんでした。

ここでは引用は省略しますが、より詳しく見ると、床の汚染が比較的高くなっています。特に、患者が立ち入ることのないはずの薬局内の床の陽性率が100% (3箇所中3箇所) でした。これは、医療従事者が歩き回ることによって、汚染を拡げていることを示しています。実際に靴底からサンプルを採取して調べると、約半分が陽性でした。集中治療室の半汚染エリアにおける汚染も、全て更衣室の床です。
病院から出るときには靴底の消毒をすべきでしょう。

マウス、ゴミ箱、ベッドの手すり、ドアノブなどの物体表面もやはり汚染されていました。医療従事者の手袋、袖口なども汚染されていました。
手指衛生も絶対に必要です。

患者のマスクも当然のことながら高い陽性率でした。

エアロゾル汚染の伝播に関する調査

空気サンプルの陽性率は、集中治療室で 66.7%、病棟で 8.3% でした。
陽性率は、患者と吸気口、排気口の位置関係で、異なることも分かりました。患者の近くや下流 (排気口付近) が高くなります。しかし、上流でも汚染はありました。汚染エアロゾルは患者から4mほどの範囲に拡がっていると見られます。
エアロゾル汚染状況 (A, B: ICU/C, D: 病棟)
A の Site 3 は患者から 4m 離れているが、陽性だった

靴での汚染拡大には注意しましょう

日本では靴を脱ぐから感染拡大が少ないというのは本当かどうか分かりませんが、靴が汚染拡大していることは確かです。汚染エリアに立ち入ったら、出るときには消毒すべきですし、そうでなくても外出から戻ったら、消毒して家にウイルスを持ち込まないように注意しましょう。もちろん、手指衛生は絶対です。気を付けましょう。

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