現在、Volume 26, Number 7 (2020年7月号) の Early Release がオンラインで公開されているところですが、4/10 付で Aerosol and Surface Distribution of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Hospital Wards, Wuhan, China, 2020 という記事が公開され、注目を集めています。靴が汚染されているので、玄関で靴を脱ぐ日本は感染者が少ないのではないか、という憶測記事の根拠として使われているのですが、本来は、病院内の汚染状況の深刻さを伝えるレポートです。
具体的には、中国・武漢の火神山医院という病院で、集中治療室と COVID-19 病棟内の空気中や物体表面について、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 がどのように分布しているかについて調査した結果の報告です。
ちなみにこの火神山医院、2020年1月23日に建設することを決めて2月3日は完成、2月4日から患者受け入れ開始というすさまじいスピードで作られた、COVID-19 のための病院です。
結論は3つ
このディスパッチ論文では、次の3つのことを結論付けています。病院中が汚染されていて院内感染リスクは極めて高い
集中治療室においても、COVID-19 病棟においても、空気中、物体表面ともに SARS-CoV-2 ウイルスが広く分布していることが分かりました。医療関係者もその接触者も、高い感染リスクを負っています。
病棟よりも集中治療室の方が汚染が深刻
集中治療室内で働く医療従事者は、保護対策をより厳しく実施する必要があります。汚染エアロゾルは4m到達している
この調査では、病棟内の汚染エアロゾルが患者から4m前後まで到達している可能性があると述べています。
ソーシャル・ディスタンスとして2m確保しようと言われていますが、足りないということです。
調査内容
汚染状況の調査
2月19日〜3月2日、集中治療室には15名の重症患者が、病棟には24名の軽症患者が収容されていました。この間、集中治療室と病棟からサンプルを収集しました。空気については、室内の空気と排気口から300リットル/分で30分間収集しました。物体表面については、床、コンピュータのマウス、ゴミ箱、ベッドの手すり、患者の着用していたマスク、防護服、排気口から綿棒で採取しました。そして PCR 検査で SARS-CoV-2 を検出しました。集中治療室と病棟それぞれについて、エリアを「汚染エリア」、「半汚染エリア」、「クリーンエリア」の3つに分けて集計しました。各エリアの陽性率
汚染されていた箇所のほとんどは、汚染エリア内でした。集中治療室においては汚染箇所57箇所中54箇所 (94.7%)、病棟においては、9箇所中9箇所全て (100%) が汚染エリア内でした。クリーンエリアからは汚染は見付かりませんでした。
ここでは引用は省略しますが、より詳しく見ると、床の汚染が比較的高くなっています。特に、患者が立ち入ることのないはずの薬局内の床の陽性率が100% (3箇所中3箇所) でした。これは、医療従事者が歩き回ることによって、汚染を拡げていることを示しています。実際に靴底からサンプルを採取して調べると、約半分が陽性でした。集中治療室の半汚染エリアにおける汚染も、全て更衣室の床です。
病院から出るときには靴底の消毒をすべきでしょう。
マウス、ゴミ箱、ベッドの手すり、ドアノブなどの物体表面もやはり汚染されていました。医療従事者の手袋、袖口なども汚染されていました。
手指衛生も絶対に必要です。
患者のマスクも当然のことながら高い陽性率でした。
エアロゾル汚染の伝播に関する調査
空気サンプルの陽性率は、集中治療室で 66.7%、病棟で 8.3% でした。陽性率は、患者と吸気口、排気口の位置関係で、異なることも分かりました。患者の近くや下流 (排気口付近) が高くなります。しかし、上流でも汚染はありました。汚染エアロゾルは患者から4mほどの範囲に拡がっていると見られます。
エアロゾル汚染状況 (A, B: ICU/C, D: 病棟) A の Site 3 は患者から 4m 離れているが、陽性だった |
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